津の国のこやとも人を言ふべきにひまこそなけれ葦の八重葺き
暗きより 暗き道にぞ 入りぬべき はるかに照らせ 山の端の月
歌のよしあしをも知らむことは、ことのほかのためしなめり。四条大納言に子の中納言の「式部と赤染といづれかまされるぞ」と尋ね申されければ「一口に言ふべき歌よみにあらず、式部は『ひまこそなけれ葦の八重ぶき』とよめる者なり。いとやむごとなき歌よみなり」とありければ中納言はあやしげに思ひて「式部が歌をば『はるかに照らせ山の端の月』と申す歌をこそよき歌とは世の人の申すめれ」と申されければ「それぞ人のえ知らぬことを言うよ。『暗きより暗き道にぞ』と言へる句は法華経の文にはあらずや。さればいかに思ひよりけむともおぼえず。末の『はるかに照らせ』といへる句は本にひかされてやすくよまれにけむ。『こやとも人を』といひて『ひまこそなけれ』といへる言葉は凡夫の思ひよるべきにあらず。いみじきことなり」とぞ申されける。
ーーー『俊頼髄脳』
暗きより… 法華経の「従冥入於冥」(冥きより冥きに入り)に拠るという。因みに無量寿経にも「従苦入苦、従冥入冥」(苦より苦に入り、冥より冥に入る)とある。
http://www.asahi-net.or.jp/~sg2h-ymst/yamatouta/sennin/izumi.html
Keine Kommentare:
Kommentar veröffentlichen