ハツア南無三宝、あさましや・いづれも聞いて給はれ・かくありがたき御恩賞を受けながら・凡夫心の悲しさは昔に返る恨みの一念・御姿を見申せば、主君の敵なるものをと・当座の御恩ははや忘れ、尾籠の振舞、面目なや・まつぴら御免を蒙らん・まことに人の習ひにて心にまかせぬ人心・今より後も我と我が身をいさむるとも・君を拝む度毎に、よもこの所存は止み申さず・かへつて仇とやなり申さん・とかくこの両眼のある故なれば、今より君を見ぬやうに
と・言ひもあへず差し添へ抜き、両の目玉をくり出だし・御前に差し上げて、スヱテ頭をうなたれゐたりけり・
ああ、南無三宝、浅ましいことよ。聞いてくだされ皆の衆、このように有難い恩賞を受けておいて、凡夫の心の悲しさは、思い返すは昔の恨みの一念だけ。頼朝殿の姿を見れば我が主君の仇と、今受けた恩をもう忘れて恩知らずな振る舞いをしてしまうのも面目ない。このようなことは許されぬが、まことに止めがたい人の行いであって思い通りにならない。これからも自分で自分を止めようとしても頼朝殿の姿を見るたびにこのような振る舞いに及んでしまうのは止めがたいだろうから、むしろ敵になってしまうことであろう。とにかくこの両目があるせいなのだから、今から頼朝殿を見られないように…
と言い終わらないうちに短刀を抜いて両目をくり抜き、頼朝の前に差し出してうなだれていた。
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